プラズマと液体の3つの物理的反応から液滴のナノサイズ化を紐解く

プラズマと液体の3つの物理的反応から液滴のナノサイズ化を紐解く

 国立大学法人ballbet贝博足彩大学院工学府生体医用システム工学専攻の渡邊良輔氏(博士課程1年)、工学部生体医用システム工学科の菅田菜月氏(学部3年)、工学研究院先端物理工学部門の吉野大輔准教授(JST創発研究者)は、プラズマと液体の相互作用を高速度カメラによって可視化し、プラズマによる液体微粒化のメカニズムを明らかにしました。

本研究成果は、Journal of Physics D: Applied Physicsにオンライン公開されました(3月14日付)。
論文名:Micro-sized droplet formation by interaction between dielectric barrier discharge and liquid
DOI: https://doi.org/10.1088/1361-6463/ad30af

本論文に関連する先行研究(プラズマによるナノミストの作製)
論文名: Potential generation of nano-sized mist by passing a solution through dielectric barrier discharge
掲載誌: Scientific Reports, Vol. 12, 10526, 2022.
DOI: https://doi.org/10.1038/s41598-022-14670-4
プレスリリース「液体を簡単にナノミストに!プラズマがもたらす新たな可能性」
/outline/disclosure/pressrelease/2022/20220623_01.html

背景
 ナノ粒子(注1)は極めて小さいサイズであることから特異な性質を持つことが知られています。そのため、半導体分野、製薬?バイオテクノロジー分野、ヘルスケア分野などをはじめとする様々な産業分野に応用されています。特に、液体をマイクロサイズやナノサイズのミストにする技術は液体微粒化技術と呼ばれ、我々の生活や産業に密接に関わる基本的かつ重要な技術の一つです。これまでにも超音波や圧力を応用した様々な微粒化手法が開発されてきましたが、高粘度や高絶縁性の液体は微粒化が困難であるという課題がありました。また、従来の手法ではナノサイズのミストを作り出すためには複数の工程を必要とするため、装置が複雑化する問題もありました。吉野大輔准教授の研究グループはこれまでの研究で、誘電体バリア放電 (注2)を用いた新しい液体微粒化技術である「プラズマナノミスト生成装置」(図1)を開発し、生成されるミストの動態および物理化学的特性について報告しました(Watanabe et al, Sci Rep 2022)。本手法は、水性?油性などの種類や組成を問わず様々な液体を微粒化可能である点で優位性がある一方で、プラズマと液体がどのように影響しあってミストが生成されるのかについては明らかとなっていませんでした。

研究体制
 本研究はJST創発的研究支援事業(JPMJFR222S)、JSPS科研費(18K19894、21K19893)、日本科学協会笹川科学研究助成(2023-2027)による支援のもと、ballbet贝博足彩で実施されました。高速度撮影は株式会社ナックイメージテクノロジーにご協力いただきました。

研究成果
 通常の観察手法では、極めて短い時間で生成されるミストの生成過程を捉えることは困難です。そこで本研究では、高速度撮影装置を用いました。ピークピーク電圧12.5 kV、周波数10 kHzのパルス電圧を印加した噴霧ユニットにリン酸緩衝生理食塩水(PBS)を毎分50 ?L(マイクロリットル、?は100万分の1を表す)で送液することでマイクロ?ナノサイズのミストを生成しました。噴霧ユニットから発生するミストの動態を毎秒30,000~100,000コマの高速度撮影を行った結果、(1)液体ジェットの不安定性による微小液滴の分離、(2)プラズマストリーマ(注3)の衝突による液滴の物理的破砕、(3)プラズマストリーマ噴出に伴う煙状ミストの発生と液滴表面の崩壊、の3つの物理的反応が複合的に起こることによってマイクロ?ナノサイズのミストが生成されることが明らかとなりました(図2)。
 反応(1)は、印加電極(金属ニードル)通過時に過剰に荷電されたPBSが、電荷を放出するために接地電極方向にクーロン力によって引き伸ばされ、幅40 ?m程度の液体ジェットを形成し、プラトー?レイリーの不安定性(注4)に従って液滴(直径50 ?m程度)が分裂する現象です。反応(2)は、噴霧ユニットのガラス管内壁に付着した液滴にプラズマストリーマが衝突し、物理的に破砕される現象であり、数十?m以下の粒子を含むミストを生成します。また、この反応(2)は他の物理的反応と比較して高頻度で発生することを確認し、ナノサイズのミスト生成の大きく寄与していることがわかりました。反応(3)は、金属ニードル下端に形成されるPBSの液滴内部から、液滴表面を崩壊させながら煙状のミストを纏いプラズマストリーマが噴出する特異な現象です。誘電体バリア放電は液体中で発生させることは通常困難であるため、液体中をプラズマストリーマが放射状に伸展し、煙状のミストを纏いながら噴出する反応(3)はこれまでに確認されたことがない現象です。これらの3つの物理的反応が連鎖的かつ反復的に動作することで、ナノサイズのミストが生成できると考えられます。

図1:プラズマナノミスト生成装置と高速度撮影のセットアップ。
図2:プラズマナノミスト生成装置は3つの異なる物理的反応で液体を微粒化する。(1)液体ジェットの不安定性による微小液滴の分離。(2) プラズマストリーマの衝突による液滴の物理的破砕。(3)プラズマストリーマ噴出に伴う煙状ミストの発生と液滴表面の崩壊。スケールバーは500 ?m。秒間30,000枚の速度で撮影。撮影開始時刻をt=0とした。?sはマイクロ秒(100万分の1秒)。図は(Ryosuke Watanabe et al, 2024. J. Phys. D: Appl. Phys. 57 23LT01)を改変して吉野らにより作成。

今後の展開
 今回、ナノミスト生成を検証した液体は、超純水、リン酸緩衝生理食塩水、ヒマシ油の3種類で、その全てでナノミスト化が可能であることがわかりました。また、生成されたミスト粒子も大部分が皮膚のバリア機能(注4)を通過できるサイズとなっています。今後は、この手法で作製した薬液ナノミストの経皮吸収特性を詳細に明らかにすることで、薬剤吸入、経皮吸収促進、高浸透化粧品などの技術開発の研究に貢献していきます。

注1) ナノ粒子
直径がナノメートル(nm、1ナノメートルは10億分の1メートル)サイズの微小な粒子。ナノ粒子になると一般的な大きさの固体にはない特異な性質を示す。

注2) 誘電体バリア放電
誘電体(絶縁体)で覆われた電極に交流電圧を印加することでプラズマを発生させる放電形式。

注3) プラズマストリーマ気体分子が電子と陽イオンに分裂した不安定な状態をプラズマという。プラズマストリーマは、電子?陽イオンが飛び交うプラズマ状の放電経路を指す。

注4) プラトー?レイリーの不安定性
液体ジェット(強い勢いで噴出する液体の流れ)がある条件を満たすと表面張力による収縮と慣性による拡張の間で競合が生じ、ジェットが不規則に分裂?細分化する現象。

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◆研究に関する問い合わせ◆

ballbet贝博足彩大学院工学研究院
先端物理工学部門 准教授
吉野 大輔(よしの だいすけ)
 TEL/FAX:042-388-7113
 E-mail:dyoshino(ここに@を入れてください)go.tuat.ac.jp

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